2008年12月11日木曜日

中央銀行とは何ぞや?

●米FRB、独自の債券の発行を検討―米財務省が発行している政府短期証券の“従兄弟”みたいなもの(12/10WSJ)
今朝の日本経済新聞も思わず取り上げている奇妙な観測記事。直感的には各国中央銀行の歴史上、前代未聞の枠組み転換に関する超スクープ記事のようですが、ウォール・ストリート・ジャーナル紙はどういうわけか敢えてアラート機能に載せませんでした。

実際には、「FRB法上の制約もあり、債券発行への道筋は平坦ではないだろう」とか、「債券を発行してバランスシートを膨らますのは財務省の領域であり、中央銀行が財政政策を独自で意思決定して実行までするというのは規律上よろしくない」という見方があり、実現は不透明ということでしょう。

しかし、火の無いところに煙は立たないのだとすると、
①質への逃避の結果、マイナス金利が付くほどの人気運用商品になってしまった政府短期証券。
日本経済新聞でみずほ証券の上野さんが「手数料を払って貸金庫に現金を預ける感覚」というのは直感的にはマイナス金利の理由が理解し辛いなかで非常に巧みな譬えです。加えて、
②CP(コマーシャル・ペーパー=民間企業が発行する合法的な“融通手形”)、住宅ローン証券化商品)、それに何と言ってもAIGへの融資等々で、米FRBの貸借対照表は約半年で倍以上にも膨張している(9000億㌦弱⇒2兆㌦超)
以上二つの背景が、FRB幹部をして、意味深長な珍言を語らしめたとも考えられます。

「景気と雇用の回復のためには、意図的にインフレを起こさせるべく、政府も中央銀行も形振り構っていてはいけない」というプロパガンダに当ブログは一貫して与しません。実現可能かどうかは別としてFRBの債券発行の選択肢というのは、どういう意味を持つのでしょうか?

財政政策とは、
「国債(税金または徴税権を担保とした国の債務のこと)を売るかわりに民間の資産を買ってあげるよ」
といううことです。

金融政策とは、
「現金(中央銀行の債務)を売る代わりに、国債(など)を買ってあげるよ」
ということです。

財政政策のほうは法律や議会(立法府)の制約が当然大きいのに対して、金融政策については迅速性という大義名分のお陰なのか、かなりの裁量が中央銀行にあるのが特徴です。財政政策も金融政策も「インフレの種蒔き」という点では同じですが、強制通用力のある価値尺度である現金のほうが種の殻は柔らかくて薄いため、発芽も成長も早いのも特徴です。

米FRBが、この時点で既に米国債以外の金融商品をのべつまくなしに購入して、殻が薄いインフレの種(=マネタリー・ベース)をばら蒔いている以上、これから発行を検討と言う債券はむしろ殻は固い⇒相当程度地面が湿っていないと(民間銀行に信用創造機能が回復しないと)インフレは発芽しない。ドサクサ紛れに、種も肥料も水もばら蒔いてきたFRBが、肥料も水もばら蒔きすぎた責任を後から言われても困るので、殻の固い種だけを蒔くという選択肢を準備しておこう、というのが理論的に考えれば今回噂の枠組みということでしょう。

勿論、財政政策と金融政策が一体化され、国債管理政策が議会から糸の切れた凧になれば、意図的インフレを起こすためには万能の力を持つことになります。中央銀行が既に「代替的金融政策」手法を手にしている限り、いまさら債券発行が可能かどうかというのは、直感的に恐れられるほど、大した意味は持たないのです。
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