2008年12月16日火曜日

靴の屈辱とブッシュ大統領の運動神経

●イラク電撃訪問のブッシュ大統領を襲った「靴の屈辱」事件から一夜明け、逮捕されたイラク人ジャーナリストはアラブ地域で英雄に(12/15International Herald Tribune)

事件はイラクに限らずアラブ全域の新聞のヘッドラインを飾り、同地域の反米感情はかつてない高まりを見せている。

靴を投げつけるというのはイスラム教においては最大限の侮辱を意味するらしい。それにしても、記者会見会場の後方からの投擲にもかかわらず、靴はブッシュの顔に的中するところだった。見事な制球力(制“靴”力?)は練習の成果なのか(計画的犯行は間違いない・・・)。一方ブッシュの身のかわし方も、皮肉抜きで、見事。

たまたま現在、文化大革命期の中国を取り扱った渾身のドキュメンタリーをNHKが深夜枠で再放送しています。紅衛兵として罪無き同胞、時には家族までも吊るし上げ殴り倒し無念の死まで至らしめた側と、吊るし上げられた側。水に流したくても流せない経験を引きずる両側の人たちが現在ようやく当時のことを語り始め、身の毛のよだつインタビューが数時間ぶっ通し。

中華人民共和国建国後間も無く、毛沢東は「大躍進」と呼ばれる政策をぶち上げ、鉄鋼生産重視+農業生産軽視の極端な計画経済下の富国強兵策を敢行するものの、農民や労働者の士気は下がり、農村には飢餓が蔓延、官僚腐敗も無視できない状況に陥り、共産党自身も政策の失敗を認めざるを得なくなりました。事態を救ったのは劉少奇+鄧小平コンビで、建国当初は認められていた自由市場等を復活させ、食糧生産は回復、労働者の士気も復活します。面白くない毛沢東は劉少奇と鄧小平を失脚させるべく、とんでもない権力闘争に出ます。曰く、両者の路線は資本主義へと走る反共産主義であり、働く貧しいものを裏切る行為だと。「造反有理」という掛け声に、党高級幹部の子女が覿面に反応し、学生を中心に中国全土で紅衛兵が組織され、自営業者だろうが一般農民だろうが多少なりとも自ら土地や資本設備を所有している人達、また不要不急の文化に携わっている人達が不当に且つ反論の余地無く吊るし上げられていくことになりました。

私は従前どおり、歴史に勧善懲悪を持ち込みたくないので、この後非業の死を遂げた劉少奇が実際は正しく毛沢東は“二度も”間違えたと決めつけることがここでの意図ではありません。たとえ劉少奇が、毛沢東の機嫌を損ねる覚悟で、瀕死の中国を救ったにもかかわらず、毛沢東が「造反有理」の一言で、大多数の若者をドミノ倒し的に熱狂へと陥れ、党内ライバルの失脚と自らの復権どころか権力固めを実現したという事実。政治と大衆心理の共鳴現象が如何に愚かな結果をもたらすか、現代人は多くの教訓を学んでいる筈なのに、一向に懲りないということが私の言いたいことです。

このような切り口で文化大革命を読むと、毛沢東の性格や手法、若しくは才能は、ナチスドイツのヒトラーと非常に似ているとも言えます。このような人物が時々政治の舞台に現れると、マスコミは99%煽動を加速する役割に回り、大衆心理との共鳴現象の触媒にこそなれ、歯止めには決してなりえない。これはマスメディアに属する記者ひとりひとりがどんなに優秀で人格者であっても、企業利益というインセンティブの前では抗することの出来ない潮流になってしまうのです。

ブッシュの顔に中りそうだった靴も、心の底から笑える話ではありますが、このような一瞬の出来事、一本のヘッドライン・ニュースから、政治も大衆心理も大きくうねり出すことがあるのだという繰り返される事実を自戒せねばなりません。

元ナスダック会長のネズミ講詐欺事件、信託管理人が選定される(12/15WSJ)
信託管理人Trusteeは、ちなみに信託保全を謳っているFX業者が破綻した際にも登場し、残余財産の分配の役割をします。このような詐欺ファンドでも同じこと。ただし舞台が証券会社なので、米国版の投資家保護基金が投資家一人当たり最大50万㌦まで補填する可能性があるとのこと。

元ナスダック会長のネズミ講詐欺事件、富は一体どこに消えたのか(12/15New York Times)
逮捕以降調査が進んでいるが、未だ実態究明に至らず。
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