2015年7月6日月曜日

ギリシャ国民投票、財政緊縮策にNO。ユーロ下落

ナチスドイツが大戦中に強奪したギリシャ中央銀行の金塊をまだ返してもらっていない

かれこれ6年にも及ぶギリシャ債務危機を、いまどきここまでこじらせたのは、今年1月の総選挙で、首相となるアレクシス・チプラス率いる急進左派連合の緊縮財政撤回路線を国民が選んだからである。


欧州でも最悪レベルである50%の若年層失業率、年金を下ろせず休業中の銀行のATMの前で右往左往する老人たち、仕入れもできず客も来ない商店主。疲弊するギリシャの市井人は、経済危機を悪化させた政権交代を後悔している。


先週末の国民投票は、ギリシャの政治経済という時計の針を、政権交代前まで戻るための残されたチャンス。


ドイツ筆頭に債権者たちが突きつけてきた救済策を脅迫状だとして、反対投票をテレビ演説で呼びかけたアレクシス・チプラスは、気が狂っている。


債権者たちが最後通牒としている救済策の反対することは、ユーロ通貨圏からの脱退を意味する。「いや、そうではない。ユーロに残れる。国民投票でNOが多数になることで、債権者たちをもういちど交渉のテーブルにつかせることができる、いまつきつけられているギリシャにとって屈辱的な条件を改善することができるのだ」というアレクシス・チプラス首相の主張は、絵空事に過ぎない。


・・・・・・と、悪夢を見て、目覚めたギリシャ有権者の多くは、賢明かつ冷静にして、YESを投ずるだろう、、、との予想が、みごとに外れてしまいました。


先週月曜日(6月29日)は、ユーロ円が1%以上のギャップダウン(窓あき)で再開。国民投票を強行するとして揺るがないギリシャ現政権に対して、それなら債務軽減交渉のテーブルにつかないというトロイカ(含むIMF)たちとの平行線のまま、翌6月30日の債務期限を迎えることになるという最悪の事態に、外国為替市場がひらいていない週末、進展してしまったからです。


今回の国民投票(レファレンダム)も、またまた、週末の出来事。ユーロ円は、またしてもギャップダウン(窓あき)でオープン。わたくしだけでなく、多くの市場参加者が、6割を超えるNo(反対)が集まるとは予想していなかった。ユーロ下落が織り込まれていなかったということになります。


わたくしを含めた予想を外した市場参加者から見ると、ギリシャの有権者(すでに国を見捨てて海外に出稼ぎリ行っている若者や、お金持ちを除かなければならないので、あえて国民と書かずに、有権者としています)は、愚か者で怠け者で浮かれ者だと唾棄すべき存在なのでしょうか???


わたくしは、5年半ほどまえ、まだ初期段階だったギリシャ債務危機に際して、
驚嘆に値するギリシャの言い訳
として、英フィナンシャルタイムズの報道《ギリシャの副首相が「ナチスドイツが大戦中に強奪したギリシャ中央銀行の金塊をまだ返してもらっていない」との発言》を引用しました。

かたや、いま英国放送協会のホームページにはこのようなチャートが出ています。



ドイツが公的にまたは私的にかかえているギリシャ向け(不良)債権が突出しているのです。

アベノミクスでデフレ問題を解決できると信じていた日本国民には笑えないギリシャのデトロイト化

年金や公務員給与などのレガシーコストにいっこうにメスがはいらず、その一方で、ギリシャ有権者は債権者たちにNOを突きつけてもユーロ圏に留まることができると楽観し、さらには債権者にとってもギリシャのユーロ圏離脱は事実上の債権放棄になる(※)として、引き金を引けないことが、ギリシャ債務問題が6年ものあいだひきづられてきた理由です。


国や地方公共団体の債務にとって、徴税権だけが担保です。それでは、夕張市やデトロイト市はなぜ債務問題を解決できなかったのか?担税力のある市民は、緊縮財政を強いられる地域に我慢して住み続ける必要を感じないからです。


IMFやEUが、ギリシャ国民に、出稼ぎや移民を禁じて、ギリシャの徴税権が及ぶ会社や工場などで強制労働をさせることなど、できないでしょう。またそのような環境で、ギリシャが通貨発行権(シニョリッジ)を復活させてドラクマが流通したとしても、自国債務がユーロ建てで発行されている以上、ユーロとの交換比率、つまり為替相場はいちじるしく低い評価にとどまらざるを得ません。


これは第一次世界大戦後のドイツのハイパーインフレと同じような混乱をまねきます。けっきょく、国民も、ババ抜きのババのような新ドラクマを支払決済手段として容認しなくなり、(ジンバブエの自国通貨と米ドルの関係のように)、やはり流通するのはユーロだけだったということになりかねません。




しかし、それでも本来手を付けるべきは、レガシーコストそのものであり、金融政策や消費税を弄るのは本筋ではなくて、有権者対策にほかなりません。これまた為政者が確信犯でやっているところです。


有史以来はじめて直接民主制を導入し、ゆえにその制度上の欠陥をあらわにしたギリシャで、いまふたたび衆愚政治の極みが演じられています。ユーロ紙幣の在庫も払底しているし、ドラクマ紙幣の印刷機も錆びついている、ところが、金がなくても自生するオリーブの実をかじり、シュノーケルで魚を啄んでいれば、そのうちなんとかなるだろうと考えて、国民投票結果に浮かれているギリシャ国民。債権者が対抗できる手段はあいもかわらず限られている。「債務不履行のトリガーを弾いてもむしろ損失は膨らむ」と自覚する債権者側は、「ユーロを供給しない」という真綿で首を締めつづける方法を続けて、ギリシャを姨捨山にするしかないと考えていくのではないでしょうか。