2008年11月28日金曜日

不思議の国の株価とワーキングプア

●ムンバイのテロ、人質解放へ(11/28WSJ、NYTなど)
犯行声明が出ていない。インド首相も国外犯だと指摘しているが、印パ問題なのかどうかもよく判らない。13年前の地下鉄サリン事件を外国人目線で見たら、日本の何処がどう危ないのかよく判らず、何となく空恐ろしい国だとしか思われなかったのではないでしょうか。本件については、「七転び八起き」流の分析をするにはまだ私には勉強が足りません。

昨日、大阪で長年お世話になっておるお客さまがフェニックス証券を訪ねてきてくれました。話題はFXから日本株にまでおよび、特に株価について最近最も気になっている点を指摘させていただきました。

日本株の弱さについては、当「七転び八起き」ブログでも一度浚いました。ここに来て我が国の上場株の特徴と言えば、株価利益率(予想利益/株価)では主要先進国のなかで意外と割高である反面、純資産倍率(純資産/時価総額)では悲しいほど割安であるという事態ではないでしょうか。

前段の株価利益率については、株価がどんどんさがっても予想利益の下方修正が追い討ちをかけるので、割安感が出てこない、むしろ割高であるということ。それと関連しますが、減益体質や赤字体質が改善されない限り、純資産では株を買えないというのが、後段の純資産倍率の話となります。

しかし、純資産倍率を「トービンのQ」だと看做せば、純資産倍率が1を(大きく)下回る企業は廃業なり赤字部門撤退なり資産売却なりすれば良い(言い換えれば、その企業が属する業界に参入を検討している経営者は事業を立ち上げずその会社を買収したほうが安くつくので、然るべき水準=純資産倍率1近傍まで株価は戻る筈です。

景気後退期(デフレ期)の金融業や不動産業のように潜在的な不良債権や不良在庫が処理または減損されておらず純資産の数値が疑わしいという要因は、時価会計が米国流にせよIAS流にせよあります。日本特有の問題は、終身雇用従業員の過保護が、廃業や赤字部門撤退や資産売却のような思い切った経営を阻んでいる点にあります。資金の出し手ではないにもかかわらず、終身雇用従業員(俗に言う正社員)が事実上“株主”になっているのです。かつて「会社は誰のものか?」という議論が喧しい時期がありました。「会社は株主のものだ」と当たり前のことを言うと、「オマエはハゲタカ(擁護)か?」などと苛められたものです。しかし、日本においては、事実、会社は株主(だけ)のものではないのです。

そして問題の核心は、終身雇用制度を批判すると、「日雇い派遣」制度を擁護している立場だと短絡的に烙印を捺され、そのような金儲け主義は米国流資本主義と同時に終わったのだと地上波を中心とするマスコミが洗脳していること。雇用の調整―マクロの需給だけではなく、衰退産業から成長産業への再配置も含む―は既得権益にしがみついた、その多くの場合、固定給の将来価値に見合う創業精神を伴わない安住型ホワイトカラーが大勢のさばっている分、すべて日雇い派遣またはそれに類する雇用体系の人たちに皺寄せされています。横断面に留まず、多くの愚かな大企業は終身雇用社員の新卒採用を、凝りもせず毎年、景況感という名のドタ勘に基づいて人数調整しているものだから、時系列的に見れば、深刻かつ理不尽な世代間の不平等をもたらしています。

「日雇い派遣」制度を生み出したとして小泉・竹中改革をマスコミが批判するのは、マスコミ会社自身が既に崩壊しているビジネスモデルにしがみついている終身雇用役職員を多く抱え込んでいるからに他なりません。ワーキングプアの理不尽さは大企業に温存されている終身雇用制度の裏側なのです。

ところで、雇われ社長というのは、究極の日雇い派遣であると、私は会社法上の解釈をしております。ときどき普通のサラリーマンに戻りたいと思ったことも過去にはありましたが、お蔭様で今は元気一杯です。
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2008年11月27日木曜日

ボルカー元FRB議長が現役復帰

●オバマ次期大統領、元FRB議長のポール・ボルカー氏を経済回復諮問会議の議長に指名(11/27WSJ)
グリーンスパン氏の前任者である御歳81歳のボルカー氏。レーガン政権のもとで、FRBの独立を守る数々の施策と発言が記憶に新しい。

さて、昨日ブログをお休みさせていただいたのも、またまた地方出張が言い訳。金融庁幹部の皆さんからのお話は主に証券行政がテーマでしたが、驚いたのはやはりFX業者の話。自己資本規制比率をわざと高い数字で申告していたが実際は債務超過。破綻後はもちろんお客様への預託金返還が不能という事態がここのところ頻発している。FX業者を監督している立場として「情けない」というご発言までありました。

それを言うなら、私は同業者の立場としても「情けない」し「腹立たしい」気分。FX業者のビジネスは真面目にシステム設計をし、忠実にFX注文をカバー先にヘッジしている限り(カバー先がリーマンブラザースのような事態にならない限り【注:但しリーマン日本法人は破綻したものの資産超過】)、大儲けも出来なければ大損して自己資本を毀損するビジネスではない筈。なのに、ドル円で1銭だのゼロ銭だの、レバレッジが300倍だの400倍だのと競い、異業種からの参入が絶えず、気が付けば130社を超える業者が蠢くのは、証券会社の(上場株式の)信用取引においては決して許されない、、、

×××信託銀行による「全額区分管理」が義務付けられていないこと×××

×××お客様の注文に対する「向かい呑み行為」が禁止されていないこと×

この「車の両輪」を悪用し、失敗すれば「破綻⇒顧客資産返還義務不履行」を覚悟すれば、大儲けできるという算段に基づいている点を指摘せざるを得ません。インターバンクのドル円のスプレッドをどんなに忠実に「良いとこ取り」をしても、エンドのお客さまにゼロ銭やら1銭を提示することは無理。「向かい呑み行為」という、《業者が勝つには顧客が負ければよい》という利益相反の発想を前提としているからこそ、FX先進国の欧州アジアで考えられないスプレッド競争とレバレッジ競争が我が国で過熱してしまったと見られます。

リーマンショック後の2ヶ月で金融庁の幹部の皆さんは上記指摘を迅速にご理解していただけたのだと拝察します。これから急速に起きるといわれるFX業者の淘汰が、どのような物差しで実現するのか、大きなヒントになると思われます。
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2008年11月25日火曜日

シティグループ救済

三連休、既に多くの内外メディアが扱っているシティグループ問題。当ブログならではの天邪鬼な切り口で今週も始めたいと思います。私が注目していることは、

①このブログで9月から主張している、《良い銀行と悪い銀行の分離》が採用されていること
②ポールソン財務長官主導の金融安定化法案7000億㌦の使われ方が二転三転した末の処理案であること
③シティグループは、GMに代表される米国自動車産業に対する最大かつダントツの債権者であること

更に、政治的な背景として垣間見られるのは、
①現財務長官のポールソン氏も、次期財務長官のガイトナー現ニューヨーク連銀総裁も、立場の違いこそあれ、モラルハザード(平たく言えば「やり逃げ」)は許さない主義主張が引き継がれていること
②オバマ次期大統領のGM等に対する言い方が「自動車産業は米国の魂だ」という労働者を意識した言い方から、暫くの沈黙を経て、「再建の見通しが無いのなら、政府は白地の小切手a blanc checkを切ることは出来ない」と豹変していること。

どう足掻いても火中の栗を拾わざるを得ないオバマ氏にとって、自動車産業に従事する労働者まで裾野が広がる金融問題は、ばら撒き政策というポピュリズムに走るか、モラルハザードを断固として許さないと言い切るか、どちらにしても叩かれることから、1月の就任までに現政権で片付けておいて欲しいというのが本音だと思われます。一方、良い銀行(good bank)を「摘出する」値打ちがもともとなかったかも知れないものの、リーマンを切り捨てたポールソン氏とガイトナー氏としては、80年代のコンチネンタル・イリノイの先例や自動車産業問題を参照しつつ、これ以上の最適解は無いという結論に至ったのだと推察します。

小口の預金者や真面目な借り手の保護は絶対に大切。結果として、大西洋の両側とも、商業銀行業務(バランスシートを経由して預金者から借り手に資金の融通が行なわれている金融業)が人質に取られている限り、政府から可能な限り身代金は奪えるという慣習が成立したと見られます。真面目に汗をかく投資銀行やブローカーに徹する独立系証券会社にとっては悔しい面もありますが、FXに関しては、銀行間市場の安定に大きな一歩を踏み出したとも言えます。

それにしても、先週末が山場だったシティグループが、FX業界で数少ないプライムブローカーを前向きに営業している業者であったのは不思議(今日からは堂々と営業してくださいませ)。それに、我が国において最初で恐らく当面最後の三角合併の例として、旧日興コーディアル証券株が東証とニューヨークと《ダブル上場》しており、去る金曜日の東証ではストップ安なのに買い注文しかないという目を疑うような板だったのは写真に収めておく価値があったかも知れません。
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2008年11月21日金曜日

原油が暴落してもアメ車は売れない

●シティグループ、金融株への空売り規制を再開するよう議会とSECに求める(11/21WSJ)
金融株を標的にした「借株の手当てのない空売り(naked short sales)」は、撤廃済み。同時に、更に厳しい空売り規制=我が国でもお馴染みのアップ・ティック・ルールの復活も求めているらしい。米国ではアップ・ティック・ルールは2007年7月に撤廃されている。

シティグループの株式は、今週過去4日間で40%下落。

●ダウ平均445ポイント下落、原油価格50㌦割れ(11/21WSJ)
シティグループ株が26%下落したほかJPモルガン・チェース株も17%下落。金融株だけでなくエネルギー関連株が大きく足を引っ張る。

その原因が、原油先物の大幅下落。昨夜だけで1バレル当たり4ドル(7.46%)下げて、2005年5月以来の低水準に戻る。

今年7月3日に史上空前の1バレル145.29ドルを付けた原油価格。大手金融機関のエコノミスト達の大半が更なる高騰を予想し、中には200ドル突破まで嘯いた意見さえありました。しかもその根拠は原油値上がりの原因が投機ではなく実需だと。今週、昨夜の下落幅の大きさを実需の減少で説明するのは無理。FX同様、ヘッジファンドや個人がレバレッジを掛けて買い上がっていた分、強制決済が強制決済を生むという実態以上の下落にならざるを得ない現象に間違いがありません。逆に言うと、存亡の危機にある多くの大手金融機関は原油バブルを演出するためにエコノミストをして相場操縦に加担させていただけのことに過ぎないと言えます。

さて、実態以上に原油価格が下落しているのなら、ガソリンを無駄遣いしながら走るアメ車の需要は復活するでしょうか?ガソリンを電気プラグに替えてもエントロピー増大の原則にかわりはありません。

●米国上院の超党派議員、自動車業界救済措置で合意(11/21ロイター)
超党派と言っても、たったの3人。250億㌦の貸出について妥協すると発表。

一方、

●米国民主党幹部、自動車業界救済法案の決議を来月まで延期(11/21WSJ)
GM、フォード、クライスラー3社に対して、公的資金が如何に活用され事業再生し返済可能となるかについて、具体的な再建計画の提出を求めた。

救済か?破綻か?ハッキリしないことにはドルも株式も買いづらいのは当然の心理。オバマ政権発足が来年1月なのに対し、GMの資金繰りが厳しいのは来月。この間、特に週末は要注意ですが、今月末は28(金)が新月、29(土)が三の酉で火の用心だそうです。
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