2008年12月5日金曜日

原油下落と金利下落

●原油価格、1バレル25米ドルまで下落!?メリルリンチが警告(12/4FT)
米国、欧州、日本の景気後退が、これまで商品市況高騰の牽引役だった中国の成長鈍化を招くならば、との説明。「100ドルを越えたら、次は200ドルだ」と騒ぎ立てた投資銀行業界が、半年も経たずに今度は「50ドルを割ったら、25ドルだ」と、懲りずに『順張り』予想で世間を騒がせる。この“ビジネスモデル”、もう終わったのではなかったのか?

経済学では、需要の増加や減少によって(物理的な理由等により簡単には)供給が増減しないモノの価格を『地代』と言います。名前の由来である土地がその典型例(だった)。括弧付過去形の意味は、もし現在でも都心の一等地に建蔽率や容積率に厳しい制限がある一角があるとすれば、そこはきっと景気動向で不動産価格が周辺の規制緩和された区画よりも遙かに上下動するでしょう、という意味です。『地代』の例としては他に、お金のためではなく兎に角好きでやっていた野球だったのに気がつけばプロ野球選手として球界を代表する名プレーヤーになってしまったみたいな選手の年俸。各球団による争奪戦は、この選手にとっては想定外の動きであり、このような引き合いのことを『派生需要』と言います。『派生需要』と『地代』が発生するモノの供給曲線は価格軸と平行なのが特徴です。

で、原油はどうか?代替エネルギーがないわけではない。供給側(OPECなど)の生産調整も出来る。未開拓の油田もある。等々を勘案すると、少なくとも今の世の中では原油価格は『地代』とは言い切れないのです。

メリルやGSのエコノミストは余程のアホか、賢いのだけどもいやいや相場操縦につき合わされているかどちらかでしょう。

●英100bp利下げ、1951年以来の低金利(12/4FT、WSJ)
1694年にイングランド銀行が創設されてからの最低水準。来年1月には更に75bp利下げして、1.25%とまで予想する向きも。

ところで"bp"はベーシスポイントの略で、0.01(パーセント)ポイントと同じ意味です。“0.01%”と言うと、(下落)幅のことなのか(下落)率のことなのかハッキリしないので、この記事のように幅であることをハッキリさせたいときに(ベーシス)ポイントという表現を使います。ブリティッシュ・ペトロリアム(英国石油)の略ではありません。

●ユーロも75bp利下げ、2.5%へ(12/4FT、WSJ)
欧州中央銀行の10年の歴史で、最大幅の利下げ。

●米ビッグスリー首脳、再び議会で金融支援を懇願(12/4Washington Post)
3社の金融支援要請額を合計すると340億㌦~380億㌦。2週間前に言われていた数字(250億㌦)から増額されているのは、たった2週間の間の赤字運転資金だったのか。

3社破綻だと250万人の労働者が失業の危機に晒されることを考慮すると、その際の対策資金に比べて、380億㌦でも安いという経済評論家の意見をワシントンポストは紹介しています。が、その評論家も、今後2年間で必要な借り換え資金は各社首脳が申し出ている数字より遙かに大きい750億㌦~1250億㌦だとのこと。
CoRichブログランキング

2008年12月4日木曜日

住宅ローンの休日

●米財務省、住宅ローン金利引き下げ案を検討(12/3WSJ)
問題のファニーメイ・フレディマック経由の30年物金利を1%引き下げ4.5%に。住宅価格下落に歯止めを掛けたポールソン財務長官の形振り構わぬカンフル剤。だが、ファニーメイとフレディマックの両GSEを不良債権の塊になるまで蹂躙し続けた根本原因こそ、需給を反映しない低金利での政策融資を長年押し付けてきたことだとは、両社が破綻か国有化か揉めた頃に当ブログで取り上げたグリーンスパン前FRB議長の批判の通り。

一方、大西洋の反対側では、
●英ブラウン首相、住宅ローンの利払いを最長2年間猶予するスキームを議会に提唱(12/3FT)
10億ポンドの予算を注ぎ込む案の詳細はまだこれから。昨今一躍「有名」になった大恐慌時代のF・ルーズベルト大統領の「米国バンク・ホリデー」に擬え、FT紙は臨時ニュースで「モーゲージ・ホリデー」と報じた。

●フォード社長、GMとクライスラーは生き残りが難しいと発言(12/3WSJ)
「自分さえ良ければ」というライバルを蹴落とす態度は道徳的には反感を買うのでは。世界的な規模の追求という路線を潔く見直したことで、GMのような致命傷を回避したということか。

●ロイター=ジェフリーCRB指数、2002年11月以来の最低水準にまで下落(12/3FT)
商品市況の世界的なベンチマークは、今年7月の記録的な高値から52%も下落。

●英ポンド、対ユーロと米ドルで下落(12/3FT)
ポンド/ユーロは記録的な安値を更新。
CoRichブログランキング

2008年12月3日水曜日

ムンバイとバンコク―テロリストを掻き立てるものは何か?

今週は諸事情ありブログの更新が不規則になっており、誠に申し訳ございません。
更新したい話題が余りに多くあり過ぎて(ムンバイの「同時テロ」、タイの「クーデター」、自動車問題)、何から書けば良いのか悩んでいるうちに、上場来の損失で話題のゴールドマン・サックスがネット銀行業務に進出とか、勉強に値する新しい動きも報じられつつあります(WSJ)。

西側のメディアを追っかけるだけでも、なかなか十分な時間がないのですが、インドやタイの話について、多くの報道は紙媒体であれ映像媒体であれオンラインであれ殆どは生々しい事実の羅列の域を出ず、ことの本質に迫ったものはまだ見当たりません。とくにインド・ムンバイのテロについては、明確な犯行声明が出されていない点で同時テロとしては極めて珍しい事態である一方、インド政府はパキスタンを名指しするわ、パキスタンの駐米大使は具体的な証拠に基づきインドと協力して事態を解明したいと嘯くわ、まだまだ謎だらけだと言わざるを得ません。

こういうときこそ、東側メディアに隠れたヒントが無いかと思い、日頃滅多にチェックはしない英文プラウダ(ロシア共産党機関紙)を見ると、事件当日付の事実を淡々と書き連ねた記事があるだけでガッカリ。しかも、掲載されている写真が、ムンバイのテロとは関係がない、ベトナム戦争で米軍のナパーム弾攻撃に逃げ惑うベトナムの子供たちの写真というありさま。

特権階級の既得権益を排除する一方、貧農に対しても手厚い保護を行なったタクシン前首相失脚後、残党を一掃しようという今回のタイのクーデターは、フランス革命に譬えれば、王政復古段階にあるのかも知れません。この反動を見た目は一旦完結させたのが憲法裁判所という聞きなれない司法機関。我が国にも戦前は軍法会議など(大審院に上告できない)特別裁判所がありました。戦後民主化の中で、日本国憲法では特別裁判所の設置は認められず(判事に対する国会での弾劾裁判のみが例外)、よって憲法裁判所もありません。これは米国にならったもので、同じ西側諸国でもドイツやフランスには存在します。自衛隊に対する違憲判断などに象徴されるように、最高裁判所は具体的な事件(例えば苫米地事件とか)がないと憲法判断はしないということなので、憲法裁判所がないことが立憲政治に資するのか否かは意見が分かれます。ちなみに自民党や民主党は憲法裁判所があったほうが良いという立場、共産党は逆のようです。

いつになるのか良く判らない(解散?)総選挙ですが、その際には最高裁判所判事に対する国民投票も同時に行なわれています。これでバッテンを喰らった判事は戦後ひとりも居ないのではないでしょうか。田母神論文で一躍話題となった文民統制civilian controlですが、最近では永田町が霞ヶ関をコントロール出来ないという文脈でも使われているようです。それなら、最高裁判事の人事権に関わる内閣総理大臣と国民の関係も制度としては死蔵されてきただけとは言えないでしょうか。

この点、タイの憲法裁判所は特別裁判所であるだけに皮肉にも司法権が独立しており、多数決上は少数派に過ぎない公務員等の既得権益集団によるクーデター派の意見を聞き入れたというところが、なかなか考え辛いところです。

ところで、私が今最も解明したいことは、タイやインドの事件の発生時期や事態の酷さ。これらが米国発金融危機や米国の政権交代とシンクロしていることに大きな意味があるのか偶然なのかということです。前者のような気もしますが、それこそパキスタン大使ではないですが具体的な証拠もなく憶測だけで論ずるほど馬鹿げたことはありません。
CoRichブログランキング

2008年12月2日火曜日

破綻か?救済か?運命の日が近づく米国ビッグスリー

再建計画を携えデトロイトから一路再びワシントンへと向かう米国自動車メーカーの首脳たち。今回も自家用ジェットを使うのでしょうか?

先週金曜日の夜に収録致しました上記テーマのセミナーがオン・デマンド(再放送)で御覧頂けるようになりました。当ブログにリンクをアップしています(冒頭30秒、フェニックス証券のCMが流れますのでビックリなさらないでください)。

今回、忙しさに感けてパワーポイント無しで約45分喋っておりますが、案の定、話し忘れたことがひとつございます。全体の論旨には影響を与えないのですが、米国ビックスリーの「上位」2社、特にGMの派手なM&Aによる世界戦略が、装置産業であるがゆえに規模の利益(限界費用逓減)が認められるとされている自動車業界において、必ずしも規模の利益をもたらさなかったという含意です。

世界の自動車産業は、大手メーカーに限ればほぼ例外なく多かれ少なかれ資本面や技術面で非常にややこしい多角的な提携関係にあることは以前に指摘した通りです。が、ことGMに関しては、SAAB、OPEL、FIAT、VAUXHALLと欧州各国の伝統ブランドを傘下に収め、ここ日本においてもスズキ、富士重工の主要株主となっていました。これらの提携先のなかには、GMの資本参加のお陰で延命できた企業もありますが、日本の2社のように何のメリットも見出せないまま自社株買いを迫られるケースを見逃してはなりません(そもそもスズキの自社株買いは取締役会の先決事項なのかどうかも疑義がある)。

私がここで言いたいことは、もはや自動車産業のような規模の利益というイメージが漂う産業でさえ、必ずしも「大は小を兼ねる」とは言えなくなっているという事実です。レベルの違いこそあれ、トヨタ自動車や光岡自動車の経営陣は、自動車産業が装置産業であると一言では言い表せない経営の難しさとか本質を見抜いていた、というと買いかぶりすぎでしょうか?

GMが多国籍巨大企業だからと言って特別扱いをされないという毅然たる政策こそ、わが国で苦労されている中小企業の労働者やベンチャー起業家の皆さんに勇気と希望を与えるメッセージであると思います。

こういうことを繰り返していると、タイの空港を閉鎖したテロリスト集団のような既得権益勢力に狙われるのでしょうか・・・
CoRichブログランキング