2012年3月21日水曜日

創造的破壊とFX攻略5月号

先週、フェニックス証券の外国為替証拠金(FX)取引のお客様が、わざわざ八重洲までご来店くださり、しばし時事放談を楽しませていただきました。そのなかで特別に印象に残った一言が、

「好不況や円高円安はたいした問題ではない。経営者が本当に恐れるのは技術革新だ」

技術革新すなわち創造的破壊こそが、資本主義の裏と表の実像であり、その裏表がオセロのように一挙に入れ替わることが企業家にとって夢でもあり悪夢でもある、、、という話を、最近ブログ等で取り上げるようにしております。

只今発売中のFX攻略最新号にも、そのような話を書かせていただきました。是非ご一読ください。


それでは、恒例と言いつつしばしばサボっている、過去記事(2011年11月号)から。

「ことりFX」で為替の新時代を迎え撃とう、なんて言うとまたフェニックス証券の宣伝かと思われそうですが、この時期に為替新時代を宣言することには大きな意味があります。

「ヨーロッパ全域を統一通貨圏に」という試みは21世紀初頭の壮大な実験だったと後の歴史家が評価するかも知れません。ナチスの第三帝国とは関係ない話ですが、ユーロ構想は、ローマ帝国の膨張やフランク王国の成立に続く偉業でもあり暴挙でもある・・・逆にそれ以外の時期のヨーロッパは、戦争や小国(含む都市国家)の分裂に明け暮れており、大雑把過ぎる大局観をお許しいただければ、地域全体の統一のメリットとデメリットの比較評価で何十世紀も揺れ動いてきた後の“一旦の”結実が統一通貨圏構想だった。。。

過去の巨大帝国との違いは、もちろん“平和裏に”各参加国の財政政策と金融政策の裁量を“奪った”ところにあります。ドイツ哲学の伝統の一端を担う弁証法で言えば、過去の分裂と統一のメリットデメリットを止揚(アウフヘーベン)したものにも見えます。

これらのうち、金融政策の放棄は自明です。が、財政政策については「毎年の財政赤字はGDPの3%までよ」などのルールは「表向きだから、裏で色々やりようがあるからね」という、ただただ参加国を増やすための二枚舌が、統一理念の土台自体を腐らせる欺瞞であることを“改めて”白日の下に曝したのが、ギリシャ危機、改め南欧危機、更に改めフランスまでも含む「ドイツ以外のユーロ圏危機」だったのです。

そこまで無理をして騙し騙し欧州全体に固定相場制を広げるメリットが域内唯一の貿易黒字国(=資本輸出国)であるドイツに集中していたことに注目すべきであるし、しかもそのドイツ国内の論調としては「公務員が58歳で退職し、現役時代の8割の年金をもらえる。政府は破綻寸前なのに、国民の大部分はまともに税金を払っていない。そんなギリシャを筆頭とする怠け者の国に、なぜ我々の税金を使わなければならないのか」(月刊ファクタ10月号:「欧米金融機関『三年目の断崖』より」ということらしいです。気持ちは判りますが・・・冒頭で、ナチスは関係ないと書きました。それは兎も角、第四帝国なんて、手を変え品を変えだけで簡単に成立するいうことではありません。為替に関して言えば、欧州関連資産の相場暴落は、根拠のない相場操縦で所詮マッチポンプだと矮小化するのは間違いでしょう。過去の民族間の戦争の傷跡や遺恨、一旦手にしてしまった豊かで安定した生活にしがみつきたいという大衆の感情に政治がメスを入れられないという文明国の末期現象など、解決困難な根の深い問題であると考えるべきだと思います。

CoRichブログランキング

2012年3月15日木曜日

ゴールドマンサックス退職社員の捨て台詞

チャールズ・チャップリンの自己評価としては最高傑作だったという「殺人狂時代」という映画。不世出の映画監督 兼 喜劇俳優 兼 ・・・・ が「赤狩り」に遭い、ハリウッドを追い出されるキッカケになったともされる作品の最後の部分で、死刑台に登る主人公が発する言葉が、

「一人殺すと殺人犯、百万人殺すと英雄、、、」

One murder makes a villain; millions a hero.

というものです。

いまでは代表的な構造不況業種となってしまった証券業界や商品先物業界ですが、かつては大儲けした時代もありました。その時代に巡り逢っていたかったとは必ずしも思わないし、またその時代も、方法も、業種、規模、個社によりけりで、決して一括りにしようとは思いません。

が、ある時期、あるカルチャーを共有していたグループは、証券と先物共通の「方法」を濫用してきたこと(で資本蓄積に成功したが、いまはそれを食い潰しているだけであること)を多くの経験者や内部者が認めていると思われます。今様に格好良く言えば、ビジネスモデルの一種なのかも知れません。

良くもあしくも投資家の自己責任というカルチャーが根を下ろしていない我が国では、自称人権弁護士の動きもあり、立法行政の対応も早く、このようなビジネスモデルは殆ど死に絶えています。

それはそれで良かったのだと思いますが、何故それが世界規模で行われていると無罪放免なのか、否、それどころか就職人気ランキングも含めた超セレブ企業と崇め奉られるのか、ここ5~6年腑に落ちない状態でした。

そこに来て、今朝飛び込んできたニュースが、題意の告発文。悪徳資本主義批判はニューヨーク・タイムズの真骨頂です。
http://www.nytimes.com/2012/03/14/opinion/why-i-am-leaving-goldman-sachs.html

この内部告発か外部告発かの端境とも言える動きに対して、ゴールドマンサックスの対応の状況をウォール・ストリート・ジャーナルが報道しています。
http://online.wsj.com/article/SB10001424052702304692804577281252012689294.html?mod=WSJ_hp_us_mostpop_read

日本のメディアもこの時間帯それぞれ取り上げていますが、一番早かったのはコチラのブログか。
http://markethack.net/archives/51808686.html
きょうのブログのテーマである「マペット」とは何ぞやを動画で解説してくれています。

ちなみに、ウォール・ストリート・ジャーナルの記事の中でも、「マペット」の解説がありまして、

"Muppet" is a British slang term for "idiot" and is sometimes used on Wall Street trading floors to denigrate an opposing trader.

英国の俗語で「馬鹿な奴」を意味し、しばしばウォール街のディーリングルームで売買相手となるディーラーを指して(つまり自分が売りたいものを買ってくれる相手に対して)使われる

とのことです。
CoRichブログランキング

2012年3月1日木曜日

それでもユーロは・・・・「マネーポスト」2012年春号本日発売

ユーロの問題は、政治が結束して域内劣等生を助けてあげるかどうかという意思決定の切り口ばかりが報道されているようです。

赤字を垂れ流している国に対して補填を決めたとしても、不均衡の解消は一時的なものにとどまるにもかかわらず、市場はその場しのぎの意思決定に左右されています。

より根本的には、「金融政策が一本化されているのに、財政政策が一本化されていないことが、ユーロの矛盾であり不備である」という根強い論調があります。では財政政策を統一すれば、ユーロ圏は蘇るでしょうか?

わたしは、より実体経済、特に失業問題、中でも若年失業率に注目して、統一通貨下で不均衡を抱えながら経済運営を続けていくことはミッション・インポッシブルではないかという切り口を提示したいと思いました。

その論稿が、本日発売の「マネーポスト」2012年春号に載っております。是非、書店で手にとって御笑読ください。

ところで、他の先生方が書いた記事で、これは面白いと思ったのがあと(?)ひとつありました。日本の年金制度・・・少子化だから年金制度が崩壊していくのではなくて、年金制度自体が少子化を推奨していることが国策上の問題という指摘です。
CoRichブログランキング

2012年2月17日金曜日

沈黙は金、雄弁は銀

日銀の白川総裁が俄に雄弁です。

今週、月曜日火曜日に行われた金融政策決定会合で「長期国債の買い入れペースを、従来の月5000億円から三倍に引き上げる」という金融緩和策の強化を決断したことが、(米国株の上昇や欧州危機の小休止ムード(?)と相俟って、)日本株はさしずめミニバブル状態。

七転び八起きブログでさんざん批判し揶揄してきた「日銀が金融緩和を徹底さえずればデフレと不況が収まるのに、それをサボっている総裁は日本経済のA級戦犯である」的批判を繰り返してきたB級エコノミストたちも、さぞ喜んでいることと思われる一方、真面目な日銀ウォッチャーのなかには、頑固冷徹理路整然の総裁の変節を疑う人も出てきます。

まずは、金融政策決定会合の直後の総裁記者会見の内容と質疑応答

前半、物価安定(≒インフレ率1%)を「目標」とよぶか「目処」とよぶか「理解」とよぶか、に関するQ&Aでは、その長さとしつこさが、官僚の言葉遊びのように思われてしまいがちです。わたしはここは、日銀はこれまでインフレターゲットを拒絶してきたものの、いま思えばインフレターゲット採用国も経済が滅茶苦茶になっているではないか。それにインフレターゲットとハッキリ言って来なかっただけで日銀がしてきたことも実質的にかなり近かったと、《怖いデータ》の数々を見せつつ何度も言っているじゃないか。今後もそれを連続的に強化していきたいだけで、矛盾も変節もないというのが根底にあるのだと思われます。この点、本日先程リリースされた日本記者クラブでの講演が更に雄弁で、趣旨がわかりやすいです(この講演録の末尾添付のチャートとグラフこそ、上記《怖いデータ》の数々そのものです)。

最初に引用した2/14(火)の記者会見に戻りましょう。お時間の少ない方に最優先で読んでもらいたい箇所は、9ページ目の質問からのところです。つまり、

「財政ファイナンスが目的でない・・・とおっしゃっても、財政政策に一段と近づいてきていると思われるリスク・・・日本銀行がこれまで一番避けてきたマネタイゼーションに近づいているのではないかという疑念を・・・総裁はどう思われますか?・・・・・・政治的圧力に屈したのではないかとの見方・・・?」

生で会見に立ち会ってなくても、ここが質疑応答のなかのクライマックスであると容易に想像がつきます。

ところで、白川総裁はこれらより前の1月にロンドン・スクール・オブ・エコノミクス主催の講演で『デレバレッジと経済成長 ―先進国は日本が過去に歩んだ「長く曲がりくねった道」 を辿っていくのか?―』と題して話をされています。イギリス人相手に、ディケンズやビートルズを引用しながら、政治からの圧力、衆愚(B級エコノミストを含む)からの圧力と向かい合いながら、のらりくらりを演じながらも理路整然かつ分かりやすく金融政策の手綱捌きをしなければならない立場の苦悩が延々と語られています。

ぶっちゃけて言いますと、燻し銀の日銀総裁が、理不尽にもデフレの元凶と罵られ続けて、逆切れしての雄弁、という感じもします。

以上、強引にまとめまして「雄弁は銀」。多かれ少なかれ西側先進国経済はこのような体たらくだから、通貨(為替)で言えば、日米欧の不美人投票はより酷く続くだろう、と考えれば、黙って金を買うのがベストの選択だ、、、という立場がどうやら中国の公共セクター(含む中国人民銀行)のようで、英FT紙によると、2011年の最後の3ヶ月間で、金の購入を更に加速させている とのことです。


世界最大の外貨準備高を誇る中国。米国債を買うのは資本輸出(=資本赤字要因)ですが、金を買うのは輸入(=貿易赤字要因)という国際収支の表の見方の落とし穴から露呈した現実であるところが面白い記事の内容となっています。

CoRichブログランキング